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価格変動戦略「AIありき」ではない/
ダイナミックプライシングビジネスの最前線①

「ダイナミックプライシング(以下DP)」という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。商品やサービスの価格を需要に合わせて変動させる価格戦略を指す。近年、プロスポーツ業界を中心に、人工知能(AI)を活用したDPの導入が進んでいる。国内のチケット領域でこの事業を手掛ける企業は現在、2社。そのうちのひとつであるダイナミックプラス株式会社の営業戦略部ストラテジスト、星野遼太氏(27歳)に話を聞いた。

アメリカのビジネス手法を日本に導入
売り上げ向上だけに留まらない効果も

──なぜ、今、DPが国内で広がっているのでしょうか?

星野 海外で成功したビジネス手法を国内に持ち込むことを“タイムマシンビジネス”といいますが、まさにそれに当たります。アメリカではメジャーリーグのすべての球団で導入されるなどDPが広く普及しており、それを現在、弊社で社長を務める平田英人が日本で事業会社化しました。その結果、プロスポーツやエンターテインメントなどの興行が抱える課題を解決できるということで今、注目して頂いています。

──御社がその先駆けと言えるのですね?

星野 はい。平田は三井物産の社員でして、そこでDPの実証実験を行い、勝算を得たため2018年6月に弊社を設立しました。三井物産を軸に、びあ、ヤフーなどの出資を受けております。

──アメリカからはどのような形でビジネスを取り込んだのでしょうか?

星野 世界最大のチケットガイドであるチケットマスターで導入されているニュースター社が開発したアルゴリズムを利用しています。海外の価格決定モデルをそのまま日本では使えないため、修正はしていますが、データ処理や既存のプレイガイドとのシステム連携の方法などは踏襲しています。また人員も同社の日本法人から2名が弊社に移っています。

──DPを取り入れるとどんな効果があるのでしょうか?

星野 目に見える一番の効果は売り上げの向上です。スポーツの試合で人気のあるカードや座席では価格が上がっても欲しい方は多くいます。一方、売れ残りそうな座席でも価格が下がれば買いたいという方が出てきます。需要を見ながら柔軟に価格を変えることで売り上げを最大化できるのです。
また第三者による高額転売もDPによって抑制が期待できます。需要のあるチケットは最初から高めの価格で販売すれば、転売者の利ザヤが減るため、やる意味は薄れていくでしょう。同時に収益が興行主に入る健全な形も維持できます。他にもイベントなどで来場者数の多い休日と、比較的少ない平日で価格に差をつければ、休日の混雑を減らし、平日の入場者を増やすことも可能になります。

Jリーグやプロ野球で導入
チームごとに異なるモデルを開発

──現在はどのようなクライアントが利用していますか?

星野 プロスポーツクラブが中心です。サッカーではJリーグの横浜・F・マリノス様に最初に導入していただき、現在はJ1、J2の多くのクラブにご利用いただいています。またプロ野球ではオリックス・バファローズ様、福岡ソフトバンクホークス様も弊社のクライアントです。

──AIの進化と共に広がってきた印象がありますが、やはりAIが中心のビジネスなのでしょうか?

星野 基本的にはAIありきのビジネスではありません。例えばスーパーのお惣菜が閉店間際に安くなったり、繁忙期のホテルの価格が上がることは誰もがご存知だと思いますが、それもDPのひとつ。AIが登場する以前からDPは私たちの生活の中にあったのです。
興行の世界で言えば、これまでチケットの価格は興行主の知識と経験に基づいて決められていました。それらのノウハウは間違いなく大きな財産ですが、そのままの形だと次の世代に伝承できません。再現性を高めるためにも、これまでのノウハウや経験をデータとして残し、それを生かして最適な価格を決めていく。AIはその実現に最も適したシステムという位置づけであり、あくまで計算するだけの存在です。

──ではそのデータはどのように集めるのでしょうか?

星野 過去の販売データをクラブから提供していただいています。ただそれだけでなく、チームの担当者からDPを導入する目的やファンの購買傾向、チームの目指す将来像などもヒアリングして加味します。そこに人気の度合いや気象条件など客観的なデータも組み合わせます。データの収集はコミュニケーションを大切にしていて、クライアントのもとには何度も足を運び、徹底的に話を聞きます。そのためクライアントの数だけ、モデルができあがり、ひとつとして同じものはありません。
ですから導入から実施までにはある程度の時間がかかります。一般的には受注から2カ月程度でモデルを作り、その2カ月後に実施という例が多いですね。

浜崎あゆみのコンサートでも実施
ショービジネスとスポーツはデータ収集に違い

──スポーツ以外の領域ではどんな事例がありますか?

星野 12月には国内のアーティストとして初めて「浜崎あゆみカウントダウンライブ」でも採用していただきました。ここを皮切りに、今後はショービジネスにも積極的に参入していく方針です。

──スポーツとショービジネスではモデルの組み方に違いはありますか?

星野 スポーツは対戦カードや天候などが異なるとはいえ、基本、同じスタジアムで年間数十試合を行いますので、データを取りやすいです。一方でアーティストのコンサートは場所を変えて行っていきますので、通常は過去のデータがあまりありません。ですから興行主やアーティストの所属事務所の方から直接、ヒアリングをすることでデータを集めていきます。もちろん当社の側でグーグルでの検索数やオリコンチャート、SNSのフォロワー数などもデータとして集積します。データの選択と集め方がスポーツとショービジネスの大きな違いです。コンサートでは過去のデータが少ないからこそ、コミュニケーションをより重視していて、実際にアーティストと会ってヒアリングを行うこともあります。

社員のほとんどがAI開発スタッフ
星野氏は日本中のクライアントに対応

──御社は今、どのような体制で業務を行っていますか?

星野 社員が15名おります。社長の平田と役員の安原樹志郎と私の3人以外はすべてAIを開発するデータサイエンティストとシステムエンジニアです。事業の拡大に伴い、社員は増す一方ですが、基本的にはAI開発のスタッフがリクルートされています。

──その中にあってストラテジストという星野さんの役割はどのようなものでしょうか?

星野 私は通訳のようなものです。クライアントの希望をデータサイエンティストに伝え、出来上がったモデルをまたクライアンアントに説明します。AIの開発にはあえて踏み込んでいませんが、それ以外のことはすべて行っています。

──1年の中で忙しい時期などはありますか?

星野 プロスポーツがオフになる年明けから春にかけては新シーズンに向け、各チームがチケット戦略を立てる時期です。その間はコンサルティングやヒアリングを行う一方、新規営業も行いますので、一番忙しくなります。ただシーズンが始まればクライアントの運用に寄り添い、その動向を現場で見ながら、モデルの微修正をデータサイエンティストに指示します。シーズン中は緊張感がありますし、クライアントは日本中にいますので、移動の連続です。1年中、気の休まることはないですね。

価格を動かし、より良い未来を作る/ダイナミックプライシングビジネスの最前線②



◇星野遼太

ダイナミックプラス株式会社営業戦略部
州立モンタナ大学卒業:統計学専攻。新卒でJPモルガン証券に入社後、デリバティブのセールストレーディング業務を経て、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。アプリゲームのデータ分析やスポーツ事業のAI案件をリード。2019年5月より、ダイナミックプラス株式会社に参画。



◇取材・文/加藤康博

スポーツライター/ノンフィクションライター
国内外の陸上競技に加え、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールといった“フットボール全般”の取材をライフワークとする。
またスポーツだけでなく、「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。過去に実業団陸上チーム、横浜DeNAランニングクラブやバスケットボールBリーグ、川崎ブレイブサンダースの運営にも参加。現在もスポーツクラブやスポーツブランドのプロモーション事業を手掛ける著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

次回更新予定。
「価格を動かし、より良い未来を作る/ダイナミックプライシングビジネスの最前線②」

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