スペインの接触文化とソーシャルディスタンス

新型コロナウィルス感染拡大で世界中に浸透したソーシャルディスタンスは、人と人との間に1~2mの距離を保つことを指し、英語ではソーシャルディスタンシングと言う。
筆者が住むスペインは本来、ソーシャルディスタンスとは相反する“人と人との距離が近い接触文化”を持つ国。家族や恋人、友人など親しい人同士ではハグ、互いの頬と頬を2回あわせるドスベソスという挨拶の習慣がある。

ドスベソスは、近所の知り合いやフォーマルな外交の場、職場など特に親しくない間柄でも社交辞令として行われ、ビジネスの場でも男性同士なら握手だが、男性と女性あるいは女性同士ならフォーマルなマナーとなっている。

「密」が大好きなスペイン人

お辞儀や会釈で相手に触れず挨拶し、他人と適度な距離をとるのが礼儀と考える日本、アジアの“非接触文化”とは対照的。普通に会話する時の相手との距離もかなり近いから、初めてスペイン人と接する日本の人は圧迫感すら感じるかもしれない。
また、スペイン人は大勢で集まり「密」になるのが大好き。バルと呼ばれる庶民的な居酒屋に入るときは、混んでいても、空いているスペースではなくわざわざ人が密集している方へ向かう。

ロックダウン中は消えたハグとドスペソス

ご存知のとおり、スペインでは厳格なロックダウンが施行され、人々の外出は厳しく制限されて同居の家族以外の家を訪問することも、自宅外で集まることも禁止された。
期間中は連日、死者の急増、医療現場の崩壊といった悲惨なニュースが流れて、政府は衛生面の徹底とソーシャルディスタンス確保の重要性を啓蒙し続けた。
飲食店や店舗は強制的に営業休止になったが、スーパーや薬局は徹底した対策をとった上で営業が認められていた。
そして、入場制限や一定の間隔で付けられた印に沿って列に並ぶことなど、大半の市民は大きなトラブルを起こすこともなく従い、手で直接商品に触れないよう使い捨てのビニール手袋を使い、非接触型のカードでの支払いが奨励された。

スペイン中の街角からハグやドスベソスの挨拶が完全に消えた。

マスクもつけずに… 復活

だが、悪夢のような感染ピークを越え、徐々に新規感染者数、死者数とも減少の兆しを見せてくると、接触の習慣はすぐに復活。5月、全国で段階的なロックダウンの緩和が始まり、自由な外出が認められるようになると、外出自粛のうっぷんを晴らすかのように大勢の人が一斉に繰り出し、道路や広場のあちこちで密集状態を作り出した。

飲食店には若者が殺到し、にわかには信じられなかったが、マスクもつけずにハグやドスベソスで相手と接触して久々の再会を喜ぶ光景が多く見られた。彼らの多くは十代、二十代のようだった。
スペイン政府は、第2波、第3波に備えて、乗り物、宿泊、劇場、美術館、店舗、ビーチなどあらゆる場所で罰金を伴うソーシャルディスタンスを徹底させる方針だが、人々の気が緩んできているのは明らかで、日に日にコントロールが難しくなっている。

スペインの接触文化が変わるかもしれない

だが、中高年の世代にはこうした流れに危機感を抱いている人々も多く、彼らは他人との接触に慎重で、屋外ではハグやドスベソスを控え、街角で立ち話する時もマスクをつけソーシャルディスタンスの距離を保っているように見える。
ワクチンや治療薬が確立されるまで、人類はコロナウィルスとの共存“ウィズコロナ”を余儀なくされる。トイレ後や食事前の手洗い、(スペインではなぜかうがいは奨励されていない)、公共スペースの清掃や消毒の徹底、家の中での靴の履き替え、マスクの着用など衛生面の新しい習慣が根づきそうだ。
親しい間柄でのハグやドスベソスは残っても、職場や公の場での挨拶は、肘同士をぶつけ合う肘タッチが普通になるのではないか。
ソーシャルディスタンスの概念は、スペインの接触文化を変えていくかもしれない。


《wepRESS編集部より》
●著者でオフィス アドオン代表の納田氏は、スペイン・バルセロナ在住。同社は弊社の海外パートナーです。
●「ご相談いただけます。欧州在住の日本人外部スタッフに、たとえば出張代行など」https://www.landgarage.co.jp/0603/


【PR】


さいたまのホームページ制作運用定額プラン2x2(ツーバイツー)のご案内